液晶新工場の記者会見で登壇する松下電器産業 常務役員の森田研氏
液晶新工場の記者会見で登壇する松下電器産業 常務役員の森田研氏
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有機ELテレビへの先行投資の意味合いも

 最後に(3)の投資負担については,言うまでもなく数多くの専門家が指摘している点だ。景気の先行きが見えにくい今,PDPと液晶工場合わせて約6000億円に及ぶ投資は過剰ではないかという指摘である。松下電器の森田氏は,こうした指摘に対して「景気の変動は,我々だけでなくすべてのメーカーに同じ条件でやってくる。いかなる条件下でも,他社に勝てる商品作りをしている」と勝算を口にする。

 ただし,いくら勝算があるとはいえ,約6000億円にも及ぶ投資は一時的には非常に大きな負担であり,リスクも大きいことは間違いない。それでも,こうした選択に踏み切るのは,持てる者のジレンマの結果,導き出された結論であると考えられそうだ。つまり,「家電メーカーの顔はテレビ」と常日頃から標榜し,テレビの垂直統合という方針を維持し続ける希少な「持てる」メーカーである松下電器にとって,今回の液晶新工場への投資は,将来に向けた先行投資という意味合いもある。すなわち,有機ELテレビへの先行投資である。

 今回の液晶新工場は,将来的には有機ELへの展開も視野に入れている。テレビ向け有機ELの駆動基板として必要な大型TFT基板を,松下電器は手中にしたことになる。有機ELテレビについては,2007年にソニーが11型品を発売したが,同社は現行の製造設備ではこれ以上の大型化ができない。より大型の有機ELテレビを実現するには,新たな投資が不可欠となる。ある意味,松下電器は今回,他社に先駆けて大型有機ELテレビの実現に向けた先行投資を実施したとも言い換えられる。

 実際,松下電器はPDP/液晶テレビの次に有機ELテレビの時代が来ると踏んでいる。例えば,2008年1月に開催した経営方針説明会では「2015年ころから,大型の有機ELテレビが既存のテレビを置き換え始めるだろう」(同社 代表取締役社長の大坪文雄氏)としている。こうした時代に備え,テレビの垂直統合を維持し続けるためには,周囲から過剰とみられる投資さえ避けて通れないのが,松下電器が置かれた立場といっても過言ではない。こうした側面からは,今回の投資の成否は,有機ELテレビ事業を順調に立ち上げられるかどうかにもかかっているといえそうだ。